美味しさの秘密は「解凍技術」にあった。極上の馬刺しを求めて

極上の馬刺しに出会う旅
極上の馬刺しに出会う旅

刺しは、昔から大好きだ。

たまに妻が夜いなくて、自分で夕食を買う必要があるときは、近くの少し高めのスーパーに売っている馬刺しを買ってきて、自宅で一人、ハイボールを片手につまむことも多い。

極上の馬刺しに出会う旅

もちろん居酒屋でも。
メニューに「馬刺し」の文字を見つけると、かなりの頻度で注文しているのではないだろうか。

霜降り、赤身、タテガミ、の3点セットが王道か。

極上の馬刺しに出会う旅

すりおろした生姜とにんにくを、馬肉専用の醤油にたっぷり入れる。
刺身や寿司を食べるときは、魚につける醤油はほんの少しで良いのに、馬刺しとなると生姜にんにく醤油をたっぷりからませて食べてしまうのは、なぜだろう?

長ネギを馬刺しで巻いて食べるのも良い。霜降りの馬刺しを一切れ、箸でつかみ、丁寧にネギを巻く。たっぷりの生姜とにんにくを混ぜた醤油に馬刺しをくぐらせて、そのまま口へ運ぶ。

極上の馬刺しに出会う旅

馬肉は牛肉よりも融点が低いため、馬刺しは口の中に入れれば、文字通り「溶ける」。ゆっくりと噛めば、その独特の甘い旨味が、馬肉の中から湧き出てきて、溶けてきた馬肉と絡み合う。

飲み込んで、馬刺しの旨味が口にまだ残っている状態で、ハイボールを流し込むのがたまらない。別に、ハイボールでも日本酒でも焼酎でもワインでもビールでも、なんでも良い。口と喉に残る濃厚な肉の旨味を、好きな酒で流し込む。

極上の馬刺しに出会う旅

他の肉や刺身などにはない、馬刺しの甘く濃い旨味が、大好きだ。

極上の馬刺しに出会う旅

刺しといえば、熊本。
その熊本に、『青春の門』や『大河の一滴』などで有名な小説家、五木寛之が、エッセイに残すほど好きな馬刺しがあると聞いた。

みみずくの散歩

さっそく、そのエッセイを読んでみた。

ここ数年、本当にうまいのは、ひょっとすると馬ではあるまいか、と思うようになってきた。いわゆる〈馬さし〉である。

(中略)

 数年前、偶然に熊本県鹿本郡植木の〈うちだの馬さし〉に出会った。九州肥後の馬さしは昔から有名だが、この店の品は特別である。その馬さしを口にして以来、ほとんどほかの肉を食べることがなくなってしまった。

五木寛之『みみずくの散歩』より抜粋

「あらゆる肉のなかで、『うちだの馬刺し』が一番旨い」
――と言っているようにも受け取れる。

確かに馬刺しは、旨い。
しかし、店が違うだけで、それほどにも差があるのだろうか?

極上の馬刺しに出会う旅

熊本に近い福岡に暮らしていることもあり、不味い馬刺しというものを食べたことがない。だが一方で、「この馬刺が極端に旨い」と思える馬刺しに出会ったこともない。むしろ、馬刺しならなんでも旨い、そう思っている。

正直、生肉を切るだけなのだから、そこまで差が出るとも思えない。
その味を確かめるため、『熊本県鹿本郡植木』――現在の熊本市植木町へ向かった。

極上の馬刺しに出会う旅

本駅から車で20分ほど。
国道添いに「うちだの馬刺し」の看板が見えた。馬刺料理屋を想像していたが、そこは精肉店だった。

極上の馬刺しに出会う旅

店の中に入ると、快活な大将が笑顔で迎えてくれる。
陳列棚には、馬肉だけでなく、牛肉や豚肉も並んでいるが、棚の6割以上は馬刺で「霜降り」「赤身」「タテガミ」「ヒモ」など、様々な種類の馬刺がブロック状態のまま売られている。

極上の馬刺しに出会う旅

価格も100グラム1,000円〜5,000円台のものまで様々だ。

大将に、「同じ霜降りでも価格が違うのは、何が違うんですか?」と聞くと、「肉の質です。質が良いのは値段も高い。やはり高い方が旨いですよ」と満面の笑みで答えてくれる。
たしかに、同じ霜降りや赤身でも「極上」や「特上」と書かれている……。

極上の馬刺しに出会う旅

購入したのは「霜降り(極上)」「霜降り(特上)」「赤身(極上)」「赤身(特上)」「レバー」の5種類。

霜降りと赤身はもちろんだが、「極上」と「特上」がどれぐらい違うのかを食べ比べてみたかったのだ。

極上の馬刺しに出会う旅

せっかくなので、来る前に感じていた「店によって、馬刺しの味にそこまで違いが出るのか」という疑問について、たずねてみた。

なぜ、五木寛之は、あれほどこの店の馬刺しを絶賛したのか? と。

本からの帰り道。
購入したての馬刺しをすぐに食べたい、という思いで気持ちが昂ぶっている。

極上の馬刺しに出会う旅

大将の話を聞いて、なぜ店によって味が異なるのか、そして「うちだの馬刺し」がそこまで旨いと言われるのか、すべて納得できた。

もちろん、仕入れによる「馬」そのものの質の違いもある。わかりやすい例は、季節だ。夏、暑い季節に育った馬よりも、冬の寒い季節に育った馬肉の方が、脂がのって旨い。魚と同じだ。

極上の馬刺しに出会う旅

季節だけではない、様々な条件が馬肉の品質を決める。

仕入れる馬肉を見ただけで質を見極めるための、目利きが必要だ。
うちだの馬刺しには、それがある。

だが、仕入れの目利きを超える秘密があった。

極上の馬刺しに出会う旅

「解凍」。

これが、本来の馬刺しの旨さを味わうためのキーワードだ。

現在、国内で販売されている馬肉は、厚生労働省の指導により、販売前に必ず2日〜3日ほど冷凍させなければならない。
滅菌のためだ。これを怠ると、保健所からの指導が入ることになっている。

昔は仕入れた馬肉をブロックにカットして、そのまま売ることができたそうだ。
馬刺しはどうせ生で食べるのだから、冷凍させずにそのまま食べたほうが旨いに決まっている。だが、今はそれが、許されない。

完全に冷凍させることは、義務である。
であれば、どうやってそれを冷凍前の状態に戻すのかがカギになる。

極上の馬刺しに出会う旅

馬刺しを通販で買ったことがある人なら経験があると思うが、馬刺しは凍った状態のまま届く。

これを冷蔵庫や常温でそのまま解凍すると、解凍と共に「ドリップ」と呼ばれる肉汁が少しずつ肉から滲み出てくる。
すると解凍して食べられるころには、馬肉がドリップでひたひたの状態になってしまう。

極上の馬刺しに出会う旅

いざ食べる時には、解凍とともに滲み出た肉汁は捨て去られ、旨味の抜けた馬刺しになっているという始末だ。

これを避けるための試行錯誤をしたのが、うちだの馬刺しの三代目、内田和秀だ。数年に及ぶ研究の末に、ドリップを出さず、旨味を馬肉の中に閉じ込めた状態で解凍する方法を編み出した。

極上の馬刺しに出会う旅

企業秘密だというその方法まではもちろん教えてもらえなかったが、試行錯誤を続ける日々は失敗の連続だった、と、これまた快活に笑って言っていた。

あらためて買ったばかりの馬刺しを手に取ってみると、ひんやりとした冷たさが、肉の重みとともに伝わってくる。
完全に解凍されて、包丁を入れればいつでも食べられるチルド状態の馬刺しだ。

極上の馬刺しに出会う旅

真空パックに包まれているその馬刺しからは、まったくドリップが出ていない。
言われなければ、これが一度冷凍された肉だとは気づかないだろう。

肉汁が閉じ込められ、美しい色艶をした、馬肉の塊。あとは、薄くカットして口に運ぶだけだ。

極上の馬刺しに出会う旅

身と霜降りは霜(繊維)にたいして直角に、2ミリぐらいの厚さで切るのが美味しい。そう教えてもらったことを思い出しながら、買ってきた馬刺しをすべてカットした。

薬味は定番の、生姜、にんにく、馬刺し用の醤油。シンプルに、岩塩のみ。そして、うちだの大将に教えてもらった、一味をまぶした醤油の3種類。

まず、赤身の特上と極上だ。見た目の違いは、それほどない。

極上の馬刺しに出会う旅

赤身の特上からいただいてみよう。
たっぷりの生姜とにんにくを入れた馬刺し用の醤油は、生姜とにんにくの繊維が残っていて、醤油が馬肉によく絡み合う。醤油が垂れないように、慎重に口の中に馬刺しを運ぶ。

極上の馬刺しに出会う旅

口の中に入れた瞬間に、適度な馬刺しの冷たさとともに、肉の柔らかさが口いっぱいに広がった。
噛み切る前にわかる、肉の柔らかさ。

一瞬、にんにく生姜の強い味と醤油の甘みが広がるが、一度噛むだけで馬刺しの中から旨味が溢れ出してくる。噛むほど旨味が広がり、醤油の甘みや薬味のキレと合わさって、口の中が満たされる。

極上の馬刺しに出会う旅

これが、五木寛之に「ラルースの編集がこれを味わったら、たぶん腰をぬかしだろう」と言わしめた馬刺しだ。

一切れずつ食べていこうと思ったが、箸が止まらず、同じ赤身の特上を生姜にんにく醤油で3切れ食べてしまった。
切る時に2ミリはかなり薄いと感じるが、食べてみるとこの厚さがちょうどよいことがわかる。

次は赤身の極上。
特上よりさらに質の高い品だ。

より馬刺しの味を愉しむために、岩塩で。岩塩はつけすぎると、えん味が強くなりすぎるため、ほんの少し。

極上の馬刺しに出会う旅

口に入れた瞬間、特上をしのぐ「フレッシュさ」が口いっぱいに広がる。もちろん臭みなど、まるでない。最高に旨い刺身に、肉の食感を与えたような味わい。

噛めばもちろん柔らかく、口の中で肉繊維がほどけながら、馬肉にとどまっていた旨味と一緒に溶け合う。
そこに、ほんの少しの岩塩が、馬刺しの濃く、甘い旨味を引き立てていく。

極上の馬刺しに出会う旅

すべて食べた後でわかったが、「馬刺し本来の味」を最も味わいたいなら、赤身を岩塩で食べるのがオススメだ。
馬刺しのフレッシュさと、濃い旨味をよりダイレクトに感じることができる。

味変えに、たっぷりの生姜とにんにくをまぜた醤油に馬刺しをくぐらせて食せば、より“肉肉しい”感じを愉しむことができる。

極上の馬刺しに出会う旅

いずれにしても、赤身ならではのさっぱりとした味わいと、それでいて濃い旨味は、いつまでも食べていられそうな、いや、いつまでも食べていたいと思わせてくれる旨さだ。

赤身の肉なので赤ワインが合いそうだが、さっぱりした味わいなので、日本酒や白ワインでも合いそうだ。
シャンパンやスパークリングワインなどの泡も合うだろう。

飲みたい衝動を抑えながら、霜降りへ。

極上の馬刺しに出会う旅

によっては霜降りより赤身が好きという人もいるが、値段の高さは霜降りの希少性を物語っている。
特に、霜降りの「極上」は、うちだの馬刺しで売られていた肉の中で、最も高価な品だった。

霜降りも、まずは特上から。
大将に教えてもらった、「一味醤油」で食べてみよう、と思い至る。

極上の馬刺しに出会う旅

醤油の上に一味を振ると、うまい具合に醤油の表面に一味が散り、赤い模様が浮かぶ。その中に、霜降りの馬刺しを一切れ箸でつまみ、3センチほどを醤油に漬けて、慎重に口に運ぶ。

質の高い肉ならではの柔らかさとジューシーさが口の中に広がると同時に、赤身よりも濃い旨味に驚いた。その後で、一味のアクセントと醤油の甘みが口に広がるが、それがさらに馬刺しの旨味を引き立ててくれる。

極上の馬刺しに出会う旅

赤身には無かった、脂の旨味は格別だ。さっぱりとした味わいの赤身と比べると「濃い」という印象だが、くどさやギトギトした感じがまったくない。
何切れでも食べられてしまいそうだ。

サシが入っている分、筋繊維は霜降りの方が強く感じる。
赤身は「なめらかに溶ける」ような食感だったが、霜降りは、より肉の繊維がある食感を楽しめる。

極上の馬刺しに出会う旅

濃い旨味の余韻を残したまま、霜降りの極上へ。

こちらも赤身の極上と同じく、岩塩だけで食べてみる。

極上の馬刺しに出会う旅

岩塩がついた部分を舌の上に乗せると、岩塩のキレのあるえん味が舌を刺激する。そのすぐ後に、先ほど食べた特上の霜降りを上回る、味の濃い旨味が舌の上から口全体に広がった。

極上の馬刺しに出会う旅

脳の奥を直接刺激するような、濃く、強く、甘い旨味で、一瞬頭がボーッとするような感覚。口の中から頭、そして体中に、馬刺しの贅沢な旨味が広がって満たされるような、そんな感覚だ。

赤身で感じた以上に、霜降りは特上と極上の違いをはっきりと感じることができる。
脂の旨味の強さが、まったく違う。
同じ霜降りなのに、ここまで味が違うことに驚いた。

極上の馬刺しに出会う旅

他の肉では味わったことのない鮮烈な旨味と、馬刺しという生肉の食感。
『みみずくの散歩』にあった、「その馬さしを口にして以来、ほとんどほかの肉を食べることがなくなってしまった」という言葉を、ようやく理解できた気がした。

極上の馬刺しに出会う旅

後に、レバーだ。
逸る気持ちを抑えて、箸を向けた。

今まで食べたことがあるレバーを数倍フレッシュにしたようなプリプリの食感で、噛むとプチッと弾力があり、その後でレバーならではの旨味が溶け出してくる。

他の肉のレバ刺しなどとは比較にならないし、最高級のハツに近いハリ感だが、ハツよりも旨味が濃い。

極上の馬刺しに出会う旅

――別格だ。
他と比較しようがない、唯一無二の肉と言える。赤身や霜降りといったいわゆる「馬刺し」とは違った食感と味を楽しむことができる。

これまでレバ刺しを食べられなかった人でも、うちだの馬刺しのレバーだけは食べられる、という人も多いそうだ。

焼酎は絶対に合うしウィスキーやブランデーのような濃い洋酒とも合いそうだ。

極上の馬刺しに出会う旅

身の特上、極上、霜降りの特上、極上、そしてレバーと堪能した。

これで、近所で買う馬刺しでは満足できなくなってしまうことは間違いない。
だが、おそらく日本で最も旨いであろう馬刺しに出会えたのだ。こんなに幸せなことがあるだろうか。

まだ、半分ぐらいの馬刺しと、ここまで我慢したアルコールが目の前にあるので、赤身、霜降り、レバー、それぞれに合う酒を探してみようと思う。

贈り物にも最適です

ご自身で召し上がっていただくのはもちろん、
大切な方への贈り物としても
人気の「うちだの馬刺し」。

百聞は“一食”にしかず。
うちだの馬刺しを食べたことが無い方は、
ぜひ一度「初回購入限定」のセット
(霜降りの極上・特上、赤身の極上・特上、タテガミ)
を購入して、
その美味しさを味わってみていただきたい。